「イノシシ算は単なる足し算なんですが、動体視力が上がっているので、うっかり計算間違いをやってしまいます。」

「足し算だったら、東大を出ていればできるのではないでしょうか」と町会長。

「足し算ですからできないことはないと思うのですが、学校や塾で習っていないので、豚コレラの蔓延が問題になっている今でも、やろうという気にはならないのかも知れません。」

「もしかして引き算も入っているのではないでしょうか」と町会長。

「おっしゃる通りです。雄のイノシシの平均寿命は6年、メスの平均寿命は10年ですから、ネズミ算と違い引き算が入ります。」

「人間と同じで雄の方が早く死んでしまうのですね。ところで、イノシシは人間と同じように一夫一婦制なのですか」と町会長。

「一夫多妻制です。」

「何歳から出産できるのですか」と町会長。

「2歳です。」

「平均4.5頭産むということでしたね」と町会長。

「おっしゃる通りです。僕も脳の機能が低下してしまっているので小数点があると難しいと思い、4頭ということで計算しました。最初、生まれたばかりの0歳の雄と雌のイノシシがいた場合、メスのイノシシが10歳で亡くなったとき、何頭になっているかという問題を考えてみました。話をさらに単純化するため、生まれた子は、雄が2頭、雌が2頭ということにしました。」

「1年後は、1歳のイノシシが2頭ですよね」と町会長。

「おっしゃる通りです。2年後も2歳のイノシシが2頭なのですが、メスが出産可能になります。」

「3年後は、3歳の雄と雌が1頭ずつと、0歳の雄と雌が2頭ずつで、計6頭ですね。3年たっても6頭にしかならないのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。4年後でも、前年の出産可能な雌は1頭なので、6たす4で10頭にしかなりません。5年後になると出産可能な雌は3頭になりますが、前年の出産可能な雌は1頭なので、10たす4で14頭にしかなりません。しかし、出産可能な雌は3頭になるので、6年後には12頭増えますが、最初の雄が死にます。合計数は14たす12ひく1で25頭です。」

「確かにイノシシ算は難しいですね。僕の脳も機能低下しているようで、計算ができません。最初の雌が死ぬ10年後には、何頭になっているのですか」と町会長。

「212頭です。出産可能な雌は36頭なので、翌年はうりぼうが144頭増えます。雌が1頭、雄が2頭死ぬのでは353頭になります。」

「驚きました。11年後には、2頭のイノシシが353頭になるのですか。まさにネズミ算の世界ですね」と町会長。

「もうお分かりだと思いますが、住宅地に現れるイノシシは、安全に暮らせる山の中の戦いで敗れたやつです。一般に考えられているように、餌付けで来ているわけではありません。」

「住宅地に現れるイノシシは、山にはいる場所がないのですね」と町会長。

「新芽が出てミミズなどの虫が多い春や夏は、所によっては山の中で生活できるかもしれません。しかし、餌が少なくなる晩秋から冬にかけては、戦いに負けて山の中にいられないイノシシが増えます。」

「それでは山に追い返しても、また戻ってきてしまいますね」と町会長。

「おっしゃる通りです。イノシシは記憶力がいいので、すぐ戻ってしまいます。山の中で戦えば死ぬかもしれませんが、住宅地で人間に見つかっても死ぬことはありません。安全なことが分かると、臆病なイノシシもだんだん大胆になってきて、昼間も住宅地に現れるようになるはずです。イノシシは人間並みに頭がいいことと、ネズミ算的に増えることが理解できなければ、日中もイノシシと一緒に暮らさなければならない日が来ると思います。」

2019/11/27